かぎのない箱
かつて、スティーブ・ジョブズは、自転車が人間の移動能力を拡大するのと同様、パーソナルコンピュータは知性の一部を拡大する「知的自転車」だと考えました。
(出典:Apple Inc.)
時代は下り、ジョブズの言う「知的自転車」なるパーソナルコンピュータが、インターネットに接続されたことにより、個人は世界中の人々とつながり、個人の知性は世界と一体となりました。しかし、その「世界」とは、見ず知らずの他人の集合体であり、それを支えるシステムも、サーバーやクラウドサービスなどの中央制御装置に個人が端末として繋がる形となってしまいました。本来、ある個人の知性は他の個人の知性とインタラクティブな関係を持つことによって、一人の力を何倍も超えた能力を獲得し、課題を解決できる可能性を持っているはずです。その過程において中央制御装置は必ずしも必要ではなく、人と人とが会話するように、もっと自由に、もっと直接的に個人同士が繋がる仕組みがあってよいと思いました。
今日、技術の進歩から社会は次のステップに進んでいます。一人ひとりがスマートフォンに代表される非常にスペックの高い携帯情報端末を常に持ち歩くようになり、5Gなどの高速通信インフラによって個人の情報端末同士が直接つながり、エッジコンピューティングを基盤として課題を解決できる環境が整ってきています。
この機を捉え、顔の見える個人と個人をつないで課題を共有し、共に解決するシステムを開発することにより、人々が安心できる社会を築く一助としたいと考えて作ったのが、この「かぎのない箱」です。
プライバシーとは何でしょう。山の中や、無人島で誰にも知られず一人で暮らしているときには、プライバシーを気にする必要がありません。プライバシーを保つというのは、多くの人の中にあって、他人から自分を守りたいという人間の根源的な気持ちの表れです。それは日常の些細な事柄かも知れませんが、信頼できる人にプライバシーを守ってもらうとき、わたしたちは心の底から安心感を感じているのではないでしょうか。
「かぎのない箱」は一人ひとりの心の中にあり、信じていれば現れ、信じられなくなったら消えてしまいます。このアプリに保管期限の機能を設けたのは、そうした移ろいやすい人と人との信頼関係を表現したかったからでもあります。
このアプリの名称は、子供の頃に読んだフィンランドの童話集の題名にちなみました。不思議な力を持つ魔法の箱を探しに行くお話です。この童話集を翻訳された児童文学者 瀬田貞二先生に、このアプリを捧げます。
みなさんが、このアプリを通じて人と人との信頼関係を確かめ合い、毎日小さな冒険を続けられますように。
2020年晩秋 L
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